先日の取寄せ本、るるるるんという文芸ユニットのvol2「冷蔵庫」
3人の作家それぞれの作品がおさめられています。
実はこの本、作品の構成上左右とも表紙と呼べるものになってますが一応右綴じという設定で開いた場合のひとりめがウニさんです。
この方は随分以前からInstagram、Twitterで相互フォローという間柄だったのでその指向や思考や嗜好や試行?などもその片鱗がちらほら確認できた、というかその信用の延長で購入に至ったわけですが。
タイトルは「おいていかれたから」
お話はミドリという主人公のある日の出来事、おそらくはいつも通りの営業的なミーティングとなるはずだった数時間。それが顧客の要望によりいつもと違ったカフェを道に迷いながら訪ねるというところから始まります。
迷いながらもたどり着いたカフェにすでにその顧客は来ていて自分がリフレッシュしたいために早く来ていただけで仕事の内容は後でメールをくれれば良いのでそのお店でゆっくりして行きなさいと言って帰ってしまう。
新横浜という具体的な地名が出てきて駅の工事の描写があったりするリアルさと対照的にこのカフェはとても不思議な場所として描かれます。店内は砂が一面に敷き詰められていてバブーシュ(モロッコの革製スリッパ?)に履き替えて砂の上の敷物に座って過ごす。
このカフェの中での出来事もとても非日常的で読みながら頭の中のビジョンはもはや砂漠みたいになってて天井も無くて…とは言え都会ならこういう極端な内装のお店も存在するのかも知れないけど少なくとも田舎暮らしの身からするとここは意図的にリアリティを欠いた、現実から少しだけずれ込んでしまった場所として描かれているのだろうと思いながら読み進める。
個人的に気に入ったのはそのカフェからの帰り道が、迷ってたどり着いたのに駅までの帰り道はほぼ一直線だったという表現。この身に覚えのある感覚はカフェ内部の不思議と外部の現実のトランジションとしてはとても秀逸、と思うのは重箱の隅かも知れないけれど。
冷蔵庫が出てくるのはやや後半です。冷蔵庫に関する回想と最後に出てくる実物。この冷蔵庫は何かの象徴?とも思うけど、いや身の回りのあらゆるオブジェクトは何かを象徴するために存在しているのではない。意味、意義よりも優先する存在そのものなのだ、ということを象徴しているのかも知れない。
あ、回りくどいのは私です。
小説ではありません。
僕はこの作品を不思議と言ってしまっているけど実は自分の理解力の無さというか読み解くセンスの悪さによって起きている事件に気づけなかったのではないかという少しモヤモヤした感じもあった。
はっきりとは語られなかったけどそこで起きたちょっとしたドラマに気づくべきだったみたいな。
スタイル的には類似性があるわけではないけどスティーヴン・ミルハウザーを読むと時々そういう思いにかられたことがあったな。
いろいろ不思議なエピソードが描かれていたけれど特に何か事件が起きたわけでもなかった、という読後感。
誤解の無いように書いておくと、この作品も面白かったしミルハウザーは短編が好きで時々読んでる作家です。
読書感想文て久々な気がする。
文章で書くのも結構時間かかりますね。これだけでも数日かけて書いてるからあと2作分はいつになることやら。